
マッチング率の最適化: “再現性”のある出会いを創出する戦略OS
はじめに
まず、一つの不都合な真実から始めよう。マッチングアプリで男性が「いいね!」を送り、マッチングに至る確率は、10%以下である層が約半数を占めるという調査結果がある[1]。
このデータが示すのは、多くの男性が投下する貴重な時間と「いいね!」が、何の成果も生まない無駄撃ちになっているという現実だ。
なぜ、このようなことが起きるのか。それは運や相性の問題ではない。原因は、マッチングを「プロフィール設計 × ターゲティング」という数式で捉え、その変数を管理する「戦略的思考」が欠けているからである。
この記事は、勘と運に頼る消耗戦を終わらせるための戦略書である。プロフィールを再設計し、届けるべき相手を特定し、成果をデータで管理するための思考OS「マッチング最適化OS」を、ここに提示する。
プロフィールという「商品」を再設計する(プロフィール最適化)
現代のマッチングアプリ市場は、写真が全てと言っても過言ではない。 スマートフォンの画面で、ユーザーは無数のプロフィールを高速でスワイプして選別する。
この行動様式においては、長文の自己紹介文が読まれる前に、写真の第一印象で「アリ」か「ナシ」かが瞬時に判断されてしまうのだ。 したがって、自身をこの土俵上で評価される「商品」へと再設計しなくてはならない。
トップ画像:0.5秒の第一印象を制する
女性は無数の「いいね!」を、インスタグラムのフィードを眺めるように高速で処理する。トップ画像は、その0.5秒の選別に勝ち残るための、最も重要な変数だ。 では、どのような写真が有効なのか。
ペアーズ創業者の赤坂優氏によるユーザーデータ分析によれば、女性から「いいね!」をもらう男性が持つ特徴の上位は「さわやか」「上品」「決断力」であるという[2]。 これは、ネットでの出会いにおける女性の警戒心を解く「安心感」と、男性的な「リーダーシップ」の2系統が求められていることを示す。
40代男性が陥りがちな、威厳のある経営者風、鋭い目つきのカリスマ創業者風の写真では、「決断力」は伝わっても「さわやかさ」が欠落し、女性を萎縮させてしまう。本質は、リラックスした笑顔とジェスチャーにある。
サブ写真:マッチング率を4.5倍にする「多面性」の技術
トップ画像で興味を持たれた後、次に問われるのは「人間の奥行き」だ。株式会社Omiaiの調査では、登録写真が1枚の男性に比べ、4枚の男性は「いいね!」の受信数が4.5倍になるというデータがある[3]。
写真を追加するほど、「いいね!」受信数は加速する

出典:株式会社Omiai「2024年版・Omiaiの今がわかる!最新まとめ」
これは単なる枚数の問題ではない。仕事の顔、趣味の顔、仲間といる顔など、複数の写真で「多面性」を提示することで、プロフィール全体の信頼性が向上し、女性は男性との未来を具体的に想像しやすくなるのだ。
マイタグ:価値観を瞬時に伝える「立体名刺」
マイタグは、自身の価値観を瞬時に伝えるための極めて戦略的なツールだ。「イメージ(感情)+一言(論理)」で構成されるこの機能は、いわば「立体名刺」である。長文を読ませる前に、センスやライフスタイルをビジュアルで直感的に伝え、共通点や共感するポイントを見つけやすくする。
自己紹介文:いいね!を3倍にする「好印象」の法則
ビジュアルが重要とはいえ、テキスト情報も依然として機能する。株式会社Omiaiの調査では、自己紹介文が99文字以下の男性に比べ、500文字以上の男性は「いいね!」の受信数が約3倍になる。まず、十分な情報量を記述することが前提となる[3]。
では、何を書くべきか。ペアーズの調査によれば、女性が自己紹介文に書かれていると好印象を抱くテーマは「趣味」「仕事への姿勢」「恋愛・結婚観」である[4]。自身がアピールしたいことではなく、相手が知りたい情報を、この順番で記述することが合理的な解となる。
「当たる的」にのみ弾を使う(ターゲティング最適化)
多くの男性が直面する、「狙った女性には無視され、興味のない女性から『いいね!』が来る」というジレンマ。 このジレンマの根本原因は、どんなにプロフィールを磨き上げても、アプローチする相手を間違えていては努力が報われない、という点に尽きる。以下から、その構造をデータで解き明かしていく。
なぜ狙いは外れるのか?:データが示す2つの構造
1. 男性の心理的傾向
なぜ、勝率の低い相手にアプローチしてしまうのか。行動経済学者ダン・アリエリーの研究によれば、男性は無意識に、自身の魅力レベルより3倍も上の女性を狙う傾向がある[5]。つまり、多くの場合、心理的に勝率の低い戦いを選択してしまっているのだ。
2. アプリの競争環境
加えて、マッチング・アプリそのものが厳しい競争環境にある。株式会社Omiaiのデータでは、40代の新規登録者は男性が55%に対し女性は45%と、男性の供給過多である[6]。ブライダルネットのような、より真剣度の高いサービスですら、40代以上の会員は男性が約39%に対し女性は約22%と、同様の構造が見られる[7]。
ケーススタディ:独自テストが暴く「勝率の方程式」
では、どのような相手にアプローチすれば勝率は上がるのか。筆者が47歳男性を被験者として、ペアーズで行った独自テストの結果が、明確な答えを示している。
競合の法則:
競合が少ない(いいね!数が少ない)女性へのアプローチは、人気女性に比べマッチング率が2倍になった。
年齢の法則:
アプローチする女性との年齢差が小さいほど、マッチング率は明確に高くなる傾向が見られた。 闇雲に「いいね!」を送るのではなく、競合が少なく、かつ年齢が近いという「当たる的」に弾を集中させることが、極めて有効な戦術であると示唆された。
PDCAを回す ― 成果を最大化する「運用」の技術
ターゲティングとは、一度設定して終わるものではない。相手の反応を見ながら精度を高めていく「運用」こそが、成否の鍵を握っている。 筆者が実際のコンサルティングで導入している「運用」の本質は、ここからだ。
実際に『いいね!』をした女性のプロフィールを、マイタグ・自己紹介文・趣味・職業などの変数と共に一件一件分析し、ボトルネックやアンマッチな点を特定する。その分析結果から、プロフィールの改善案やターゲティングの最適案を策定するのである。
結論:婚活を「科学」に変える
マッチングアプリの成功とは、プロフィールを一度作って終わりにする静的な活動ではない。「マッチング率」という最重要な指標を常に観測し、仮説を立て、改善し続ける「運用」そのものである。
この思考OSを導入することで、婚活は、運や感情に振り回される消耗戦から、再現性のある論理的なプロジェクトへと変わる。
次のステップ:
メッセージのエラーを診断する マッチング率を高めるためのOSを提示した今、次に向き合うべきは、そのマッチングをデートへと繋げるためのメッセージ戦略だ。多くの男性がここでつまずき、無意識の『エラー』を犯している。その具体的な診断は、こちらの記事で行ってほしい。
出典:
- [1] 株式会社コレック.ホールディングス「マッチングアプリに関する意識調査アンケート・2025年版」(2025年2月)
- [2]赤坂優「NewsPicks記事・恋愛ビックデータ」(2015年7月)
- [3]株式会社Omiai「Omiaiの“今”を総まとめ」(2024年2月)
- [4]株式会社エウレカ「Pairsコラム・Pairsの自己紹介文に絶対に書くべきは、あなたの趣味」(2015年8月)
- [5]Lee, L., Loewenstein, G., & Ariely, D. 「If I’m Not Hot, Are You Hot or Not?」 Psychological Science (2008年7月)
- [6]株式会社ネットマーケティング(現・株式会社Omiai)「Omiaiの“今”を総まとめ」(2023年2月)
- [7]株式会社IBJ「ブライダルネットHP・会員データ」(2025年10月)